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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)255号 判決 1950年3月28日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人の上告理由は末尾添附別紙記載の通りでありこれに対する当裁判の判断は次ぎの如くである。

第一点について。

原審は福島県農地委員会が本件土地買収計画の公告をした当時においては、未だ見るべき手入もなく、客観的に見て開墾をして居るものと認められない状体にあつたと認定して居るのである。しかる以上公告後において開墾が多少為されたとしてもそれは買収計画の適否を判断する理由とならないこと原審のいう通りである。第一審判決に論旨摘録の様な判示があるとしても、原審が同様の判断をして居ない以上それが原判決破毀の理由とならないこという迄もない。其他原判決には所論の様な違法はなく論旨は理由がない。

第二点について。

本件において所論土地が上告人の祖先の墓地であるということは上告人において立証すべき事項である。反証なき限りそうと認むべきものではない。しかみならず原審が証拠によつて認定した事実関係其他挙示の資料によつて、本件墓石等を無縁のものと認定したことに少しも違法はない。しかして原審の認定した様な(前認定の墓石、地蔵石等は何れも年数を経た為め損壊し且苔深く文字を判読出来るものは殆無いけれども、その内地蔵石一基の右側にわずかに文化九年一〇月一五日と判読されること、云々)墓石地蔵石があつたからといつて其土地を開墾することは必ずしも善良の風俗を害する等其他所論の様な違法あるものではなく論旨は理由がない。

第三点及び第四点について

原審が「其他買収計画について取消さなければならない様な違法又は不満があることを認むるに足る何等証拠がない」と判示したのは語は稍足らないけれども違法又は不満ありとすべき根拠となる事実を認むるに足る証拠がないとの意であるこという迄もない。判決においては当事者の主張した間接の事情(判決主文に影響のない)について一々判断を示す必要あるものではない。主文に影響ある事実関係及び法の適用を示さば足るのである。当事者が種々の間接事情を述べその結論として漫然「公の福祉に反する」とか「権利の濫用だ」とかいつた場合右の結論に対して言葉通り公の福祉に反するとか反しないとか又権利の濫用であるとかないとか一々ことわる必要あるものではない。原審は上告人が本件買収計画が違法、取消さるべきものなりとする事由の基礎たる事実として主張した事実関係については総て詳細に審理し其事実なしと認めて上告人の請求を棄却したのであるから何等判断遺脱、理由不備等の違法はなく論旨はいずれも理由がない。

第五点について。

所論民事訴訟法の規定は訓示的規定であつて、必ずしも口頭弁論終結後二週間内に判決を言渡さなくても違法でないこと既に大審院においても繰返し判例として居る処で、此解釈は相当であり論旨は採用に価しない。

よつて上告を理由なしとし民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従つて主文の如く判決する。

以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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